象嵌:貴金属の作る小さくて華麗な世界

私がカフスボタンを集めるようになったのは自己主張できる能力の高さに惹かれたから。

「私」を出さないスーツ姿においてカフスボタンは「プライベート」を表現できる希少なアイテム。
ほとんどのカフスボタンは2、3センチ程度の大きさで、直径1センチくらいのものもあります。
小さいし、普段はジャケットの下に隠れているけど、ちょっと腕を動かしたときにちらっと見えるだけの存在。

だから、その瞬間に相手の目を引くような、そして雑談のきっかけになるようなものが多い。
と、思います。
職人さんの技が光っていたり、「おっ」と目をひく凝った意匠だったり。

それを顔の横に持ってきて、カフスボタンの自己主張できる力を存分に発揮させてみたいと思ったのです。

今日はその中で象嵌のご紹介です。

鋼や銅など、固めの金属に台形の溝を彫り、銀や金など柔らかい金属を中にはめこんで模様やデザインを作る技法です。
背景になる鋼や銅は黒く酸化させていて、輪郭や模様の金銀を華やかに引き立てます。

象嵌はシリアのダマスカスで生まれ、飛鳥時代にシルクロード経由で日本に上陸したそうです。
京象嵌、肥後象眼など伝統的工芸品に指定されています。
英語で象嵌はダマシーンdamascene、と呼ばれていますが、ダマスカスからきています。

鳥や、植物のモチーフのものも多いですが、こうした細かい模様のものも見かけます。

そして、最初はすべて同じ象嵌に見えていたのですが、いろいろと違いがあるらしいことも理解してきました。

「ニセ象嵌」と言われるものは、地金に溝を彫らずに上に棒状の柔らかい金属をのせてデザインを作り、熱を加えて金属を接着させるというもの。こちらは模様が浮かび上がっています。
「ニセ」というと悪い物のように聞こえますが、模様となる金属が地金にはまっているか、上に乗っているかの違いなので、粗悪品ということではないそうです。

あ、ちなみにコンピューターの中のチップも、シリコンに作った溝に銅などの金属をはめこむという象嵌技法でつくられているそうです。

日本の象嵌についてはまた別の機会に調べて書きたいと思います。

象嵌のカフスボタンで作ったイヤリンクスはインスタグラムに投稿しています。

参考文献
What is Damascene? Philadelphia Museum of Art
What is False Damascene? Philadelphia Museum of Art
DAMASCENE WARE IN SPAIN’S TOLEDO New York Times April 11, 1982
象嵌 てしごとクラブ

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